結論を先に言うと、スイスは「インフレ0.4%・政策金利0.00%」という、トルコとちょうど正反対の世界にいます。そして日本の個人投資家にとって最も重要な変化は、日銀の利上げによって「スイスフラン円を買うとスワップがマイナスになる」時代に入ったことです。
先日トルコの記事を書きましたが、今回はその鏡像であるスイスを、同じ方法で分解します。トルコが「高インフレ・超高金利・通貨安」なら、スイスは「ゼロインフレ・ゼロ金利・通貨高」。この2つを並べて見ると、為替という仕組みの正体がかなりクリアに見えてきます。
使うのはスイス連邦統計局(BFS)、スイス国立銀行(SNB)、スイス経済省経済管轄庁(SECO)の一次情報だけです。
1. まず数字を並べる(2026年8月時点)
| 指標 | 直近値 | 時点 | 出所 |
|---|---|---|---|
| 消費者物価 LIK(前年比) | +0.4% | 2026年7月 | BFS |
| 消費者物価 LIK(前月比) | −0.1% | 2026年7月 | BFS発表 |
| コアインフレ(前年比) | +0.3% | 2026年7月 | BFS発表 |
| SNB政策金利 | 0.00% | 2026年6月18日据え置き | SNB |
| 失業率(登録ベース) | 3.0% | 2026年7月 | SECO |
| 失業率(季節調整済) | 3.1% | 2026年7月 | SECO |
| 実質GDP(前期比) | +0.4% | 2026年Q1 | SECO |
| 名目賃金(前年比) | +1.8% | 2025年 | BFS |
| 実質賃金(前年比) | +1.6% | 2025年 | BFS |
| 中央値賃金(月額・総額) | 7,024フラン | LSE2024(2025年11月公表) | BFS |
| 経常黒字 | 160億フラン | 2026年Q1 | SNB |
| 対外純資産 | 9,740億フラン | 2026年Q1 | SNB |
| EUR/CHF | 0.93〜0.94 | 2026年8月 | 市場 |
| CHF/JPY | 195円前後 | 2026年8月 | 市場 |
| 対米追加関税 | 12.5%(一律) | 2026年7月24日〜 | SECO |
2. CPI:0.4%という「ほぼゼロ」の世界
数字そのもの
2026年7月のスイスの消費者物価指数(LIK)は、前月比 −0.1%、前年比 +0.4% でした。指数値は101.1ポイント(2025年12月=100)。6月の+0.5%から低下しています。
前月比がマイナスです。物価が下がっています。
低下の主因は航空運賃、ディーゼル、ガソリンの値下がりと、季節的なセールによる衣料品・靴の下落でした。一方でホテル外の宿泊施設、灯油、レンタカー・カーシェアは上昇しています。
コアインフレは0.3%
エネルギー・燃料・生鮮季節品を除いたコアインフレは、前年比 +0.3% で6月から横ばいでした。
トルコのコアが29.91%だったことを思い出してください。100倍の差があります。
EU基準で見ると少し違う
同じ7月の調整済消費者物価指数(HVPI、EU基準)は101.30ポイント(2025年=100)で、前月比+0.3%、前年比 +0.7% でした。国内基準のLIKより高く出ます。バスケットの構成が違うためで、他国と比較するならHVPIを使うのが筋です。
先進国との比較
| スイス | トルコ | 日本 | 米国 | ユーロ圏 | |
|---|---|---|---|---|---|
| CPI(前年比) | +0.4%(7月) | 31.75%(7月) | 1.7%(6月) | 3.4%(7月) | 2.9%(7月速報) |
| コア | +0.3%(7月) | 29.91%(7月) | 1.7%(6月) | 2.5%(7月) | 2.5%(7月速報) |
| 政策金利 | 0.00% | 37.00% | 1.00% | — | 2.25%(ECB預金金利) |
出所:スイス=BFS、トルコ=SBB、日本=総務省統計局、米国=BLS(CNBC報道)、ユーロ圏=Eurostat速報(ニッセイ基礎研究所)、ECB預金金利=市場解説
スイスは、先進国の中でも突出して物価が上がらない国です。 2025年の年平均インフレ率はわずか+0.2%でした。2024年は+1.1%、2023年は+2.1%。世界がインフレに苦しんだ時期でも、スイスは2%台で済んでいます。
なぜスイスだけインフレしないのか
理由は3つあります。
- 通貨高:フランが長期的に上昇し続けているため、輸入品の価格が自動的に下がる。輸入インフレが構造的に抑制される
- エネルギー構成:電力の大半を水力と原子力でまかない、化石燃料への依存度が相対的に低い
- 価格規制と競争構造:家賃は参照金利に連動し、医療費・公共料金も規制色が強い
そしてこの「インフレしない」という性質こそが、フラン高を生み、それがさらにインフレを抑える、という自己強化ループを作っています。フラン高とインフレの低さは、原因と結果の両方です。
3. 雇用:3.0%だが「悪化トレンド」に入っている
公式の数字
2026年7月のSECO発表は以下の通りです。
- 登録失業者数:139,276人(前月比+1.1%、前年比+7.8%)
- 失業率:3.0%(前月比+0.1pt)
- 季節調整済失業率:3.1%(横ばい)
- 求職者数:227,200人
- RAV(地域職業紹介センター)への求人届出:前月比−4.4%(届出済求人45,156件)
6月時点の内訳も見ておきます。
- 若年失業者(15〜24歳):11,747人(前年比+9.8%)
- 高齢失業者(50〜64歳):38,636人(前年比+8.9%)、失業率2.6%
- 求職者率:4.8%
水準は低いが、方向は悪い
失業率3.0%は先進国では相当に低い水準です。ただし 前年比で7.8%増えている という事実のほうが重要です。若年層に至っては+9.8%。
さらに象徴的なのが、連邦参事会が2026年5月27日に、操業短縮手当(Kurzarbeit)の最長受給期間を法定12ヶ月から24ヶ月へ再延長した ことです。これは「企業が雇用を維持できないほど需要が落ちている」ことを政府が認めた措置に他なりません。次回の見直しは2026年末です。
背景は後述する米国の関税です。
トルコとの統計上の違い
ここは注意が必要なポイントです。
- スイスの3.0%は「登録失業率」:RAVに登録した人だけをカウント。ILO基準(労働力調査ベース)だと4%台になるのが通常です
- トルコの7.6%は労働力調査ベースだが、労働参加率が52.9%と低いために分母が小さい
つまり どちらの数字も、そのままでは国際比較に使えません。 失業率という指標は、定義を確認せずに国をまたいで並べると必ず間違えます。
FXトレーダーへの含意
スイスの雇用統計は、相場をほとんど動かしません。SNBが見ているのは物価と為替であって雇用ではないからです。
ただし、失業増加のトレンドはSNBがマイナス金利に踏み込む理由になり得ます。 そこだけは意識しておく価値があります。
4. 賃金:実質賃金が2009年以来の伸び
2025年の賃金統計
BFSが2026年4月21日に公表した数字です。
- 名目賃金指数:+1.8%(106.1ポイント、2020年=100)
- 年平均インフレ率:+0.2%
- 実質賃金:+1.6%(2009年の+2.6%以来の高い伸び)
内訳も見ておきます。
| 区分 | 名目賃金上昇率 |
|---|---|
| 全産業 | +1.8% |
| 女性 | +2.3% |
| 男性 | +1.5% |
| 工業部門 | +1.5% |
| 製造業 | +1.7% |
| 建設業 | +1.3% |
| 化学・製薬 | +3.1% |
| 機械製造 | +0.7% |
| 医療・介護 | +0.4% |
労働協約(GAV、対象59.5万人)での実効賃上げは+0.9%でした。
水準そのもの
スイスの中央値賃金は、フルタイム月額 7,024フラン(総額、13ヶ月目賃金を按分して含む) です。BFSの賃金構造調査(LSE2024、2025年11月公表)による数字です。
CHF/JPYを195円として円換算すると、月約137万円。年間では約1,780万円です。
業種差も大きく、製薬では月10,420フラン、飲食・宿泊では4,680フランとされています。男女賃金格差は未調整で17.8%、業種・職位・学歴を調整しても7.8%の説明できない差が残ります。
トルコとの対比
同じ「中央値・最低賃金」という指標を並べると、この2国の距離がわかります。
| スイス | トルコ | |
|---|---|---|
| 賃金水準 | 中央値 月7,024フラン(約137万円) | 最低賃金 手取り月28,075TL(約9万円) |
| 名目賃金上昇率 | +1.8%(2025年) | +27%(2026年最低賃金) |
| 実質賃金 | +1.6% | 大幅マイナス |
| 生活実感 | 実質購買力が2年連続で改善 | 最低賃金が4人家族の飢餓ラインを下回る |
名目の上昇率だけ見ればトルコが15倍速いのに、実質では逆転しています。 インフレを差し引かない数字に意味がないことの、これ以上ない実例です。
5. GDP:industry が支え、消費は止まっている
2026年Q1の数字
SECOが2026年6月1日に公表した確定値です(スポーツイベント調整済、前期比)。
- 実質GDP:+0.4%(Q4 2025は+0.2%、その前は−0.4%)
- 非調整ベース:+0.7%
- 速報値は+0.5%だったので、小幅な下方修正
「スポーツイベント調整」というのはスイス独特の処理です。FIFAやIOCなど国際競技団体がスイスに本部を置いているため、五輪やW杯の年にはライセンス収入がGDPを押し上げてしまう。これを除去した数字が本来の景気を示します。
中身
| 項目 | 前期比 |
|---|---|
| 工業(付加価値) | +1.3% |
| サービス業 | +0.2% |
| 商業・小売 | マイナス |
| 民間消費 | ほぼ停滞 |
| 政府消費 | +0.9% |
| 国内最終需要 | +0.1% |
成長を支えたのは工業だけで、家計消費は止まっています。 国内最終需要+0.1%というのは、ほぼゼロ成長です。
2025年通年の成長率は1.2%(非調整)でした。SNBは2026年通年で 約1%、2027年で 約1.5% を見込んでいます。
経常収支:GDP比7%の黒字
トルコが経常赤字国なら、スイスは典型的な経常黒字国です。
- 2026年Q1の経常黒字:160億フラン(前年同期267億フランから111億フラン減少)
- 対外純資産:9,740億フラン(前期比+180億フラン)
- 米財務省の報告書によれば、経常黒字はGDP比 7.0%、金額で約730億ドル
Q1の減少はほぼ金取引の変動によるもので、構造的な悪化ではありません。スイスは金地金の精錬・取引のハブなので、統計が金価格に大きく振られます。
この巨大な経常黒字こそが、フラン高の根本原因です。 毎期、外国から入ってくるフランの需要が構造的に存在する。金利がゼロでもフランが買われるのは、金利ではなく需給の問題です。
米国の関税:2026年最大の外的ショック
ここは日本ではあまり報じられていないので、丁寧に整理します。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年4月 | トランプ政権が「解放の日」関税を発表(IEEPA根拠) |
| 2025年8月 | スイスに 39% の関税 |
| 2025年11月14日 | 米スイス共同声明。関税上限を 15% に。スイス企業は5年で2,000億ドルの対米投資を表明(ロシュ500億ドル、ノバルティス230億ドルなど) |
| 2026年2月 | 米連邦最高裁がIEEPA根拠の関税を違法と判断 |
| 2026年2月24日 | 暫定措置としてSection 122に基づく一律10%関税 |
| 2026年7月24日 | Section 301(強制労働調査)に基づく一律12.5%関税に移行。MFN税率と相殺。時計は12.5% |
| 2026年7月31日 | 医薬品にSection 232に基づく最大15%の追加関税(多数の例外あり) |
2026年8月7日には、トランプ大統領が対スイス貿易赤字390億ドルを挙げて再び不満を表明し、あわせてスイスの低金利にも言及しています。法的に拘束力のある通商協定の交渉は継続中です。
輸出依存度の高いスイス経済にとって、これが2026年の最大の重石です。 機械・時計産業への打撃が特に大きいとされています。
6. 金融政策と為替:ここが一番大事
SNBの現在のスタンス
- SNB政策金利:0.00%(2026年6月18日、据え置き)
- 銀行の当座預金は一定限度まで政策金利で付利、それを超える分は 0.25%ポイントの控除(実質的なマイナス金利)
- 「必要に応じて外国為替市場に介入する用意を高めている」 と明記
- 総裁:マルティン・シュレーゲル、副総裁:アントワーヌ・マルタン、理事:ペトラ・チュディン
- 金融政策決定会合は年4回のみ。次回は2026年9月
条件付きインフレ予測(政策金利0%が予測期間を通じて続く前提)は以下の通りです。
| 年 | SNB予測 |
|---|---|
| 2026年 | 0.6% |
| 2027年 | 0.6% |
| 2028年 | 0.7% |
すべて「物価安定(0〜2%)」の範囲内です。SNBは今、動く理由がありません。
なお6月の議事要旨では、3月以降に金融環境が緩和した主因として 「フランの減価」 が挙げられています。SNBにとって、フラン安は歓迎すべき出来事です。
為替の現状:フランは「弱く」なっている
これが2026年の意外な事実です。
| ペア | 水準 | 動き |
|---|---|---|
| EUR/CHF | 0.93〜0.94 | 2月の0.9115から上昇(=フラン安ユーロ高) |
| USD/CHF | 0.808前後 | 8月上旬にフランが対ドルで上昇 |
| CHF/JPY | 195円前後 | 52週レンジ181.44〜204.42、前年比+6.9% |
注目すべきは、中東情勢が緊迫しているのに、対ユーロではフランが買われなくなっている ことです。ホルムズ海峡が封鎖され、ブレント原油が84ドル台に上昇した局面でも、EUR/CHFは上昇(フラン安)しました。
一方、対ドルではフランは買われています。つまり起きているのは 「フラン安」ではなく「ユーロ高」 です。ECBが預金金利を2.25%まで引き上げたことで、ゼロ金利のフランに対してユーロの金利魅力が勝っている構図です。
「有事のフラン買い」という反射は、相手通貨によって効いたり効かなかったりする ようになりました。ここは覚えておく価値があります。
米国の為替監視リスト
スイスは他9ヶ国とともに、米財務省の為替操作監視リストに残っています。ただし現在該当するのは経常黒字の基準(GDP比7.0%)だけで、対米二国間貿易黒字の基準にも、一方的な為替介入の基準にも該当しなくなりました。
つまり米財務省は「SNBはもう組織的な一方向介入をしていない」と見ています。SNBが大規模介入に踏み切る際の政治的ハードルは、以前より下がったとも読めます。
7. フランを触るなら押さえておきたい5つのポイント
① スワップの符号が逆転した
これが2026年の最重要ポイントです。
かつては日本がマイナス金利、スイスが1.75%だった時期があり、CHF/JPYの買いはプラススワップでした。今は違います。
| 政策金利 | |
|---|---|
| 日本(日銀) | 1.00% |
| スイス(SNB) | 0.00% |
金利差は逆転しています。 CHF/JPYを買う(フラン買い・円売り)と、低金利通貨を買って高金利通貨を売ることになるため、スワップはマイナス です。
トルコリラ円が「持っているだけで毎日入る」通貨なら、スイスフラン円は 「持っているだけで毎日出ていく」通貨 です。同じ「円がらみのマイナー通貨ペア」でも、コスト構造が正反対です。
長期保有を前提にするなら、この持ち越しコストが年間でいくらになるかを必ず計算してください。
② だからこそ「売る側」の通貨として優秀
逆に言えば、フランは調達通貨(ファンディング通貨)として理想的 です。
ゼロ金利で、政治的に安定していて、流動性がある。これは高金利通貨に対してフランを売るキャリートレードが成立する条件がそろっているということです。
かつて円が担っていた「世界の調達通貨」の役割は、日銀の利上げによって部分的にフランへ移りつつあります。CHFを売って高金利通貨を買う戦略を検討するなら、そのファンダメンタルズの裏づけは今のスイスにあります。
ただし後述のとおり、これは 2015年に個人投資家を大量に破産させた戦略と同じ構造 であることを忘れないでください。
③ 2015年フランショックという教訓
スイスフランを語るうえで、絶対に外せない歴史があります。
2011年9月、SNBは「1ユーロ=1.20フラン」を下限とする為替フロアを導入し、これを維持するために無制限に外貨を購入すると宣言しました。市場はこれを信じ、EUR/CHFの売り(フラン買い)は「1.20より下には行かない」という前提で取引されました。
2015年1月15日、SNBは予告なしにこのフロアを撤廃しました。
フランは一時1ユーロ=0.9フランを割り込む水準まで暴騰。値幅にして30%近い動きが数分で起きました。損切り注文は約定せず、多くの個人投資家が証拠金を超える損失(追証)を負い、FX業者も破綻しました。
この事件の教訓は「中央銀行の約束は破られる」ということです。 そして今のSNBもまた、「必要に応じて介入する用意を高めている」と言っています。方向は当時と逆ですが、当局が相場に介入する意思を持っているという構造は同じです。
④ 年4回しかない会合の重みを理解する
SNBの金融政策決定会合は 年4回 です。主要中銀の中で最も少ない。
これは「1回あたりの重みが4倍」を意味します。会合と会合の間隔が3ヶ月あるため、その間に蓄積した情報が一度に反映され、決定がサプライズになりやすい。
トルコ中銀が年8回、日銀が年8回、FRBが年8回であることと比べると、SNBの会合は特別なイベントです。次回2026年9月の日程だけは、必ずカレンダーに入れてください。
⑤ 短期売買には向いているが、癖がある
私はドル円を1分足EMA9の逆張りで、5〜7pipsの固定損切りでスキャルピングしています。CHF/JPYはリラ円と違ってスプレッドは比較的まともですが、それでもドル円よりは広く、ドル円と同じ設定はそのまま使えません。
CHF/JPYの癖を3つ挙げます。
- 欧州時間に動く:東京時間はほぼ動かない。日本の会社員が触れる時間帯とは相性が悪い
- ユーロと連動しやすい:平時はEUR/JPYとほぼ同じ動きをする。分散になっていない
- 有事に一方向へ飛ぶ:リスクオフ局面では窓を開ける。損切りが刺さらない可能性がある
「安全通貨だからリスクが低い」というのは誤解です。安全通貨とは、危機のときに一方向へ急激に動く通貨のことです。 保有者にとって安全でも、トレーダーにとっては急変動リスクそのものです。
8. 今後、何をウォッチすればいいか(1次情報リスト)
定期発表カレンダー
| 情報 | 発表元 | タイミング |
|---|---|---|
| 消費者物価指数(LIK) | BFS | 毎月初旬(3〜5日頃) |
| 失業率・労働市場 | SECO | 毎月上旬(6〜10日頃) |
| 金融政策決定会合 | SNB | 年4回のみ。次回2026年9月 |
| 会合の議事要旨 | SNB | 会合の4週間後 |
| 四半期GDP(確定値) | SECO | 四半期・約2ヶ月後 |
| Flash-GDP(速報) | SECO | 四半期末の約45日後 |
| 国際収支・対外資産 | SNB | 四半期 |
| 賃金指数 | BFS | 年1回(4月頃) |
| 賃金構造調査(LSE) | BFS | 隔年(次回2027年晩夏) |
| 対米通商関係の更新 | SECO | 随時 |
主なソース
- BFS(連邦統計局):https://www.bfs.admin.ch/ — 独仏伊英の4言語。CPI・賃金・人口統計
- SNB(スイス国立銀行):https://www.snb.ch/ — 金融政策、国際収支、外貨準備。英語版完備で読みやすい
- SECO(経済管轄庁):https://www.seco.admin.ch/ — GDP、労働市場、通商政策
- admin.ch:https://www.admin.ch/ — 連邦政府の公式リリース集約サイト
定点観測すべき「3つの数字」
- SNBの条件付きインフレ予測 — 予測が2%に近づけば利上げ、マイナス圏に沈めばマイナス金利。年4回しか更新されないぶん、更新時の情報量が多い
- EUR/CHF — SNBが最も気にしている通貨ペア。0.90を明確に割り込むと介入警戒
- 対米関税の適用範囲 — 12.5%の一律関税がどこまで拡大・縮小するか。スイス経済の需要側を直撃する
9. まとめ:トルコとスイス、2つの極から見えること
先日書いたトルコの記事と、この記事を並べてみます。
| トルコ | スイス | |
|---|---|---|
| CPI(前年比) | 31.75% | +0.4% |
| コアCPI | 29.91% | +0.3% |
| 政策金利 | 37.00% | 0.00% |
| 会合回数 | 年8回 | 年4回 |
| 失業率 | 7.6%(広義28.8%) | 3.0% |
| 実質賃金 | 大幅マイナス | +1.6% |
| 経常収支 | 赤字(12ヶ月389億ドル) | 黒字(GDP比7.0%) |
| 通貨の方向 | 長期的に下落 | 長期的に上昇 |
| 円との金利差 | +36pt(円が低い) | −1.00pt(円が高い) |
| スワップ(対円買い) | プラス(大) | マイナス |
| 最大リスク | 政治・政策の逆行 | 中銀の突然の方針転換 |
この表が、為替の本質を一枚で説明しています。
高金利通貨は、高い金利を払わなければ誰も持ってくれないから高金利なのです。低金利通貨は、金利がゼロでも持ちたい人がいるから低金利なのです。金利の高低は、通貨の優劣ではなく リスクの価格 です。
トルコリラの37%は、31.75%のインフレと通貨下落に対する対価。スイスフランの0%は、経常黒字GDP比7%と実質賃金プラスという裏づけがあるからこそ成立している。
そして日本は今、その中間にいます。 政策金利1.00%は、スイスより高くトルコより圧倒的に低い。かつて世界の調達通貨だった円は、その座をフランに譲りつつあります。この構造変化は、スワップ狙いの戦略設計を根本から変えます。
トレーダーとしての結論
スイスフランについては、以下を押さえておけば十分です。
- CHF/JPYの買いはマイナススワップ。長期保有には向かない
- CHFの売りは調達通貨として合理的。高金利通貨と組み合わせる戦略の土台になる
- 年4回のSNB会合だけは必ずチェック。次回は2026年9月
- EUR/CHFが0.90を割り込む局面は要警戒。SNBの介入は突然来る
- 2015年を忘れない。安全通貨は、危機のときに最も激しく動く通貨である
安全通貨という言葉に安心してはいけません。スイスフランは「経済が安定している通貨」であって、「値動きが安定している通貨」では、まったくありません。
参考資料・出典一覧
本記事で使用したデータの出所です。すべて2026年8月18日時点でアクセスできることを確認しています。
スイス公的機関(一次情報)
スイス・欧州メディア/調査機関
先進国比較・日本語ソース
| 内容 | URL |
|---|---|
| 総務省統計局|消費者物価指数(全国) | https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html |
| 日本銀行|金融政策 | https://www.boj.or.jp/ |
| 第一生命経済研究所|2026年6月 日銀利上げ(政策金利1.00%) | https://www.dlri.co.jp/report/macro/623090.html |
| CNBC|米国2026年7月CPI 3.4% | https://www.cnbc.com/2026/08/12/cpi-inflation-report-july-2026.html |
| ニッセイ基礎研究所|ユーロ圏2026年7月HICP 2.9% | https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=86422?site=nli |
| SBI FXトレード|スイスフラン/円の解説(フランショック含む) | https://www.sbifxt.co.jp/beginner/step01_4_079.html |
| みんなのFX|スイスフラン/円の特徴とSNBの政策運営 | https://min-fx.jp/start/currency-pair/chfjpy/ |
| Investing.com|CHF/JPY 過去データ | https://jp.investing.com/currencies/chf-jpy-historical-data |
| 大統領府戦略予算庁(トルコ)|比較用CPIデータ | https://www.sbb.gov.tr/enflasyon/ |
※本記事は2026年8月18日時点の公表データに基づいています。数値は各機関の改定により変更される場合があります。投資判断はご自身の責任でお願いします。

