結論から言います。2026年5月の豪ドル/米ドル(AUD/USD)は、「①RBA(豪中銀)の連続利上げ」「②中東・原油」「③FRBの議長交代」という3つの材料の綱引きで動きました。この3つさえ押さえれば、1ヶ月分のチャートの「上がった理由」「急落した理由」「レンジになった理由」が、後づけではなく筋道立てて読めるようになります。
僕(ちきトレ)はふだんドル円の1分足スキャルがメインですが、こういう「値動きとニュースを答え合わせする」作業は、地味だけどトレードの実力を一段引き上げてくれます。今回はその実例として、実際の15分足チャートを使って解説していきますね。

※チャートはTradingView(OANDA、AUD/USD・15分足)。期間はおおむね4/29〜5/31。EMA9(期間9の指数平滑移動平均)を表示しています。
まずはチャートを「6つの局面」に分ける
値動きは、ニュースに反応して「動く→止まる→また動く」をくり返します。だからまず、相場を局面ごとに区切るクセをつけるのが理解への近道です。今回のチャートはこう分けられます。
- 序盤のレンジ(0.714〜0.718)
- 上の水色ボックス=高値0.7279への吹き上げ
- 赤いチャネルの急落(0.727→0.708)
- 下の水色ボックス=安値0.7081
- 安値圏のレンジ(0.710〜0.717)
- 月末の反発(0.720手前)
ひとつずつ、ファンダと突き合わせていきます。
① 序盤のレンジ:イベント待ちの様子見
5月最初の山場は、5月5日のRBA(オーストラリア準備銀行)の金融政策理事会でした。大きなイベントの前は、買いも売りも手控えられて方向感が出にくくなります。
加えてこの時期は中東(イラン)情勢による「有事のドル買い」が豪ドルの上値を抑える一方、資源国通貨としての下支えもあり、上にも下にも行きづらいレンジになりました。イベント前のレンジは「待ち」のサイン、と覚えておくと無駄なエントリーを減らせます。
② 上の水色ボックス(0.7279):利上げ+資源高のダブルパンチ
ここが一番わかりやすい上昇局面です。上昇要因が2つ重なりました。
1つ目はRBAの利上げ。 RBAは5月5日の理事会で政策金利を4.35%へ引き上げました。これは3会合連続の利上げで、2025年に行った利下げ分を完全に巻き戻した形です。「金利が高い通貨は買われやすい」という為替の基本どおり、豪ドルに買いが入りました。
2つ目は原油高。 5月4日にUAE(アラブ首長国連邦)の石油施設が攻撃され、原油価格(ブレント)が一時1バレル114ドル超まで急騰しました。ここで大事なのが、豪州はLNG(液化天然ガス)や石炭の世界有数の輸出国だという点です。エネルギー価格が上がると豪州の輸出採算が良くなるため、原油高はむしろ豪ドルのプラス材料になりやすいんです。
この「利上げ×資源高」のダブルで、AUD/USDは0.7279まで吹き上がりました。水色ボックスは、このスイングハイ(直近高値)=レジスタンス帯を示しています。
③ 赤いチャネルの急落(0.727→0.708):今度は「ドル全面高」が勝った
5月中旬、相場は一転してキレイな下落トレンド(赤いチャネル)を描きます。ここで起きていたのは**「ドルの全面高」**です。
中東情勢が再び緊迫すると、市場はリスクオフ(リスク回避)に傾き、世界の安全資産であるドルに資金が逃げ込みます。「有事のドル買い」というやつですね。さらに、原油高はインフレ懸念を強め、それが「FRBは利下げできない(むしろタカ派)」という見方につながってドルを押し上げます。加えて、次期FRB議長に指名されたウォーシュ氏が「タカ派寄り」と受け止められ、ドル指数の上昇要因になっていました。
ポイントは、②では豪ドルのプラスに働いた資源高が、③では「ドル高」というもっと強い力に押し負けたという点です。同じ材料でも、その時に相場を支配しているテーマ次第で効き方が変わる——ここが為替のむずかしくも面白いところです。
④ 下の水色ボックス(0.7081):売り尽くしの底
急落は0.7081で止まりました。ここで豪ドルの「構造的な強さ」、つまりRBAの利上げ継続観測と資源国としての底堅さが効いて、売りが一巡しています。下の水色ボックスは、この反発した安値=サポート候補を示しています。
この0.708は「硬いサポート」と考えていい?
ここはよく質問されるので、正直に書きます。**「効いた安値だが、まだ"硬い"と断定するのは早い」**が答えです。
理由は、0.7081が今のところタッチ1回だけの反応安値だから。テクニカルのセオリーでは、サポートは「複数回試されて、その都度跳ね返された」ことで初めて信頼度が上がります。1回反発しただけの安値は、強いサポートの"候補"であって"確定"ではありません。
ただし今回は、テクニカルの安値とファンダの下支え(RBA利上げ観測+資源高)が重なった合流点なので、節目としての価値は十分あります。実戦では「0.708を背に逆張りするなら、明確に割れたら素直に損切る」という前提で使うのが現実的です。硬いと過信して買い増し(ナンピン)する場所ではない、と僕は考えています。
⑤ 安値圏のレンジ(0.710〜0.717):ドル買いが一巡
底を打ったあとは、安値圏でのもみ合いになりました。「有事のドル買い」が一巡して急落が止まり、一方でRBAの追加利上げ観測が下値を支える——買い材料と売り材料が拮抗して、往来相場になっています。こういうレンジ局面は、ニュースで説明しきれない「需給・ポジション調整」のノイズが多いので、無理にストーリーを当てはめないことも大事です。
⑥ 月末の反発(0.720手前):金利差で豪ドル見直し
5月末にかけて、AUD/USDは再び上を試しました。背景は、RBAの8月利上げ観測(市場は約75%織り込み、最終到達点は4.60〜4.85%との見方)が豪ドルを支える一方、米国側では成長鈍化のサインが出始め、ドルの上値が重くなったこと。金利差と資源の両面から豪ドルが見直された格好です。月末特有のリバランス(持ち高調整)のフローも乗りやすいタイミングでした。
なぜドル円トレーダーもこのチャートを見るべきか
「自分はドル円しかやらないから関係ない」と思うかもしれません。でも、AUD/USDのようなクロス通貨の動きは、世界の市場が今リスクオン(強気)かリスクオフ(弱気)かを映す鏡になります。豪ドルのような資源国通貨が売られている時はリスクオフ、買われている時はリスクオン、という具合です。
この「地合い」を把握しておくと、ドル円やクロス円(豪ドル/円など)でのエントリー精度がぐっと上がります。1つの通貨ペアだけ見るのではなく、相場全体の温度を測る——これは僕が5年間スキャルを続けてきて、いちばん大事だと感じている習慣です。
【コラム】「資源高=資源国通貨高」は本当か?豪ドルの“3つの顔”
ここまで「原油高は豪ドルのプラス材料」と書いてきましたが、実はこれ、半分正しくて半分ミスリードです。中級者がつまずきやすいポイントなので、コラムとして触れておきます。
まず大前提として、豪州は原油そのものの純輸入国です。WTI原油を売って稼いでいるわけではありません。では、なぜ原油高が豪ドルにプラスと言われるのか。それは豪ドルが「資源そのもの」ではなく、次の“3つの顔”を通じて間接的に動くからです。
- ① 交易条件の顔:LNG(液化天然ガス)や石炭の輸出採算。これらの価格は原油に連動しやすいため、エネルギー高は豪州の稼ぐ力を押し上げます。
- ② リスク選好の顔:豪ドルは典型的な「リスク通貨」。世界が強気(リスクオン)なら買われ、弱気(リスクオフ)なら売られます。
- ③ 金融政策の顔:原油高はインフレを刺激し、それがRBAの利上げ観測につながって豪ドルを支える——という、いちばん見落とされがちな経路です。
たとえば「戦争が落ち着いて原油が下がったら、豪ドルも弱るのでは?」という問いの答えは、この3つの顔の綱引きで決まります。直感に反して、地政学の沈静化はリスクオン(②)で豪ドル高に出ることが多く、本当のカギは「原油安がRBAの利上げ姿勢をどこまで溶かすか(③)」にある——というのが結論です。
ここから先(3つの顔の詳しい綱引きと、実際のトレードでの見分け方)は、別記事でじっくり解説する予定です。まずは「資源国通貨は、単純な"資源高=通貨高"では動かない」とだけ覚えておいてください。
まとめ:5月のAUD/USDを動かした3つの材料
- ① RBAの連続利上げ:5月5日に4.35%へ。3会合連続で、豪ドルの構造的な下支えに
- ② 中東・原油:原油高は資源国・豪州にプラス。ただしリスクオフのドル全面高には押し負ける場面も
- ③ FRBの議長交代:ウォーシュ新議長の「タカ派」観測がドルを下支え。中旬の急落の一因に
そして注目すべき次のイベントは、**8月のRBA理事会(追加利上げの有無)**と、FRBの今後の金融政策スタンス。この2つが、夏に向けたAUD/USDの方向を決める分かれ道になりそうです。
チャートを「局面で区切って、材料と答え合わせする」——この習慣をコツコツ続けると、ニュースを見ただけで値動きが予想できるようになっていきます。一緒に鍛えていきましょう。
動画でもうひとこと
平日21時ごろから、YouTubeでリアルタイムのトレード配信をやっています。こういう相場分析の「実況」もやっているので、よかったら覗いてみてください。 👉 ちきトレのYouTubeチャンネル(@gyakuten44)
あわせて読みたい
- FXをゼロから体系的に学びたい方へ → FX完全ロードマップ(全28記事)
- そもそもpips・ロットって? → FXの基礎用語まとめ
- テクニカルの第一歩 → 移動平均線(EMA)の使い方
